原田知世 恋愛小説2—若葉のころ

Produced by 伊藤ゴロー
背伸びして歌っていた、あのころの私に。自身の少女時代をテーマにした、ラヴ・ソング・カヴァー・アルバム第2弾。
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- September
- やさしさに包まれたなら
- 秘密の花園
- 木綿のハンカチーフ
- キャンディ
- 年下の男の子
- 異邦人
- 夏に恋する女たち
- 夢先案内人
- SWEET MEMORIES
2016年5月11日発売
UCCJ-2137
¥3,000(税込)試聴・購入
- 恋愛小説2—若葉のころ[初回限定盤]
CD+DVD: UCCJ-9211
¥3,888(税込) - <初回限定盤特典>
CD:小沢健二「いちょう並木のセレナーデ」のカヴァーを追加収録
DVD:「September」と前作収録曲の「夢の人」のMusic Videoを収録
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原田知世と伊藤ゴローに訊く 『恋愛小説2---若葉のころ』の巡り方
まず、この作品が誕生したきっかけから教えてください。
原田ゴローさんとは以前から、「こんな素敵な歌謡曲がありましたよね」といった話をしていたんです。ツアーの移動中に、一緒にネットで検索してチェックしたこともありした。ですので、そんな楽曲たちを歌ってみたい気持ちはかねてから漠然とありました。
伊藤それがじわじわとレコード会社のディレクターやバンド・メンバーにも伝わって、昨年の秋ぐらいから具体的に企画がスタートしました。
選曲は知世さん主導で?
原田テーマが「私が子供の頃に聴いていた楽曲」と決まりましたので、まずは私が思い入れのある曲を中心に30曲くらいリストアップして、そこから10曲に絞り込んでいきました。ちなみに、「木綿のハンカチーフ」はゴローさんの提案です。
さて、ここからは各楽曲について、収録順にじっくりお訊きしたいと思います。冒頭はリードトラックで、竹内まりやの「September」。シティポップ感満載のアレンジに仕上がっています。
原田この曲の後にリリースされた「不思議なピーチパイ」がとても印象的でした。「September」ももちろん好きだったのですが、明るい曲調だったので、まさかこんなに悲しい歌詞だとは思っていなくて。失恋の歌だったとは、後から気づきました。
切ない歌ですよね。その歌詞をじっくり味わいたくなります。2曲目は荒井由実の「やさしさに包まれたなら」です。
原田ユーミンの作品は大好きなものがたくさんあって、今回、候補も数多く出しました。中でもこの曲を選んだのは、このアルバムに歌詞がぴったりだと思ったからです。とてもピュアな気持ちだった時代を思い返しているようで、素晴らしい歌詞だとあらためて感じましたね。「目にうつる全てのことは メッセージ」だなって大人になった今、本当にそう感じています。子供のころにはわからなかったけれど、今なら理解できるような気がして。
大げさに言えば、自分の人生の節目で歌詞と向き合ったとき、違った意味が見えてくるような。
原田そういった意味でも、今回のアルバムには必要な曲だと思いました。
そして続く松田聖子の「秘密の花園」は意表をつくアレンジで、びっくりしました。
伊藤僕も(笑)。ああなるとは思っていなかった…。
ゴローさんのロックな一面が垣間見られるようです。他の楽曲も含め、アレンジはかなり固めてからレコーディングに挑んだんですか?
伊藤弦とかホーンが入ってない曲のベーシック・トラックは、参考にしたい音源をスタジオでメンバーに聴いてもらって、ジャズのセッションのように、その場で確認してゆくレコーディングの仕方でした。今回はバンドでやっています、という感じがでればいいなと思っていました。ベーシック録りの前に、もちろん全曲知世ちゃんとプリプロ録音をしましたが、テンポなど、スタジオでもあらためてバンドと一緒に歌ってもらいながら決めました。
原田この曲はゴローさんから、「聖子さんぽく」歌ってほしいとリクエストがありました。聖子さんのこの時代のアルバムをリアルタイムで聴いていた頃、恋に憧れていたんですよ。私も近い将来こんな恋をするのかなって。聖子さんはとても女の子らしくて、かわいらしいじゃないですか。そのイメージのまま、この曲を実に素直に歌っていたんです。ところが、今回それを自分が歌うとなったとき、あのキュートな感じがなかなか出せなくて(笑)。あらためて聖子さんの偉大さを感じました。そして、そのキュートさを理解して松本隆さんが歌詞を書いていらっしゃるわけでしょ。その2人のバランスの素晴らしさ! だからすごく好きな曲なんですけど、カヴァーするのはとても難しかったです。
伊藤カヴァーしてみてわかったんですが、聖子さんの楽曲は節回しがとても重要なのです。彼女の歌のニュアンスの豊かさや強さがあってこそ成立していた曲なんだなと。
一人のヴォーカリストがいて、その才能をサポートする作家チームがいて、彼らががっちりと組んでひとつのイメージを作り上げていたんですよね。
原田そこが素晴らしいので、カヴァーするとなると、どうアプローチすれば良いのか悩みましたね。
太田裕美の「木綿のハンカチーフ」は、先ほどもおっしゃったようにゴローさんからの提案だったとか。
原田歌っていて、本当に楽しかったんです。それは普段着ない服を着せていただいたら、すごく着心地が良い、そんな感覚でした。歌詞も切なくて、『恋愛小説』シリーズの「演じるように歌う」というテーマにぴったりだと思います。
伊藤こうしたストーリーのある歌詞って良いですよね。じっくり聴けるし。僕も大人になってからこの歌詞の意味がわかって、とても感動しました。
原田私もあまり悲しい印象はなかったのですが、今回歌ってみてこんなに切ない曲だったんだってわかりました。
原田真二の「キャンディ」は唯一の男性アーティストのカヴァーですね。
原田当時の原田真二さんからは中性的なイメージを感じていました。男っぽい声ではなく、あのハスキーでなんとも甘い歌声で。今回カヴァーするにあたって、そういった雰囲気を引き継ぎたいと思いました。大好きでいつかはレコーディングしたいと思っていた1曲です。
伊藤僕は日本の歌手のシングル・レコードはあまり購入しなかったのですが、これは発売当時に手に入れましたね。
原田「年下の男の子」はとてもキュートで楽しい曲。キャンディーズの振りもとても印象に残っているんですよね。これをゴローさんがどんなふうにアレンジしてくださるんだろうという期待もあって選びました。
少しませていて、お転婆な女の子が主人公で。それを知世さんが演じているという。
原田そう、そこが楽しいんですよ!
アレンジもそれに相応しく、ちょっとやんちゃで(笑)。
伊藤ずいぶんやんちゃになってしまいましたね(笑)。もう少し、ジャズっぽくする予定だったんですが…。ちなみに、作曲された穂口雄右先生にもアレンジを気に入っていただけたようで光栄です。どの曲もそうなんですが、原曲に忠実でありつつ、ほんの少しだけ隠し味を加えることを心掛けています。
原田「異邦人」も子供の頃から大好きな曲で、アルバムもよく聴いていました。久保田早紀さんは、とても影響を受けたアーティストのひとりです。この曲は節回しが独特じゃないですか。それを小学生のころに何度も練習していました。
伊藤出だしから全体に漂っている独特のコブシね。
原田それがないとこの曲の良さが表現できないんですよ。だから、今回のレコーディングで、子供のころの練習の成果をやっと発表できました(笑)。いつかはカヴァーしてみたいと思っていたのですが、この曲が持っている世界が独特で、これまでアルバムの中に収録することが難しかったんです。ただ、今回は楽曲がヴァラエティ豊かだし、ゴローさんをはじめとする信頼できるバンド・メンバーもいるので、チャレンジする意味はあると思っていました。
大貫妙子の「夏に恋する女たち」は同名のドラマの主題歌だったんですね。
原田ドラマの印象はあまり残っていないのですが、大貫さんのしなやかで凛として、しかも洗練されているこの曲は、アレンジも含めて衝撃的でした。そして時を経て、今聴いてもやっぱり素敵だと思える、大好きな1曲です。次の「夢先案内人」は山口百恵さんの曲です。彼女の作品はたくさん好きなものがありますが、自分が歌手として合うものは意外と少ないんです。
この曲はそれまでの百恵さんの「強い女性」のイメージとはちょっと異なっていますね。
伊藤やはり阿木燿子(作詞)さん、宇崎竜童(作曲)さんコンビの作品はメロディーやコードなど、とてもトリッキーで、オリジナリティに溢れています。でも、すんなり耳に入ってくるところが不思議なんですよね。
原田阿木さんにはインパクトのある歌詞が多いですよね。言葉が耳に刺さるような。そして、それを完璧に演じきれる百恵さんがいて、成り立っていると思います。
そして、本編ラストを飾るのは美しいハープの音色をフィーチャーした松田聖子の「SWEET MEMORIES」です。
原田歌詞をあらためて読んで、すごく大人の曲だったんだなと。聖子さんがこの曲を歌われたときは20歳くらいだったと思いますが、まるでいろんな経験をしてきた大人の女性が自分を振り返っているかのように聴こえます。
伊藤もちろん女性を主人公にした歌なのですが、男性が聴いてもどこかぐっときますよね。
そうですね。どの曲も何かしらの新しい気づきがありますね。それを与えてくれる、このアルバムの存在価値はとても大きいと思います。
原田私と同世代の方でしたら、きっとご自身の思い出がよみがえってくるのではないでしょうか。一方で、原曲を知らない方は新鮮な気持ちで楽しんでいただけるものになったと思います。素晴らしい曲をいい形で次の世代に伝えていきたいですね。
聞き手:中林直樹