原田知世 音楽と私

時をかけてきた、うたの花束。
デビュー35周年記念。代表曲をオール新アレンジでセルフリメイク。
Produced by 伊藤ゴロー

    1. 時をかける少女
    2. ロマンス
    3. 地下鉄のザジ (Zazie dans le metro)
    4. ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ
    5. 天国にいちばん近い島
    6. ときめきのアクシデント
    7. 愛のロケット
    8. 空と糸 -talking on air-
    9. うたかたの恋
    10. くちなしの丘

    UCCJ-2141
    STEREO
    <POP / JAZZ>
    定価:¥3,000 (税抜価格) + 税

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    • 音楽と私
      [初回限定盤][SHM-CD][+DVD]
      発売日: 2017.07.05
      ¥3,600(税抜)+税
      品番:UCCJ-9213
    • <初回限定盤特典>
      CD:雨のプラネタリウムを追加収録
      DVD:「ロマンス」と「時をかける少女」のMusic Videoを収録
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原田知世と伊藤ゴローによる『音楽と私』全曲解説

原田知世のシンガーとしてのキャリアは、大きく3つの時期に分けられる。ヒットメイカーやミュージシャンから優れたポップソングを提供されて、そこに託された少女像を歌を通じて表現した80年代。鈴木慶一やトーレ・ヨハンソンなど様々なミュージシャンとのコラボレートを通じて、シンガーとしての新しい扉を開いた90年代。そして、伊藤ゴローという新たなパートナーを得て成熟した歌声を聴かせるようになった2000年代以降。そんななか、デビュー35周年という節目を迎えて、初めてのセルフ・カヴァー・アルバム『音楽と私』が届けられた。プロデュースとアレンジを手掛けたのは伊藤ゴロー。カヴァー・アルバム〈恋愛小説〉シリーズを支えたミュージシャン達と共に、35年間の音楽人生を彩った名曲の数々を、いま届けるべき歌としてひとつひとつ丁寧にリメイクした本作は、原田が音楽の庭で丹精こめて育てたうたの花束。その歌に込められた想いを、伊藤ゴローと共に語ってもらった。

———とにかく名曲揃いのアルバムですが、選曲は大変だったのではないですか。

原田今回は「デビュー35周年記念」というテーマがあったので、デビューしてからここまでの代表曲だったり、ファンの方からの人気が高い曲だったり、そういったものばかりを集めました。そのなかで、〈いま歌ってその歌が生きるかどうか〉っていうのを考えたんです。今の声で歌って、その曲の魅力を引き出せるかどうか。

伊藤とくに80年代の曲はキーが高く設定されてますからね。キーを下げて歌ったりすると、曲の雰囲気ががらっと変わったりする。それですごく良い曲だけど外したものもあります。

———これまでとは違った歌い方を見つけるのも大変ですね。

原田はい。もともとの歌いグセみたいなものがあるし、頭の中に自分の声がしみついているので。YouTubeでいろんな人がカヴァーしているのを見つけて、それを参考にしたりもしました。海外の人がギター一本で〈時をかける少女〉を歌っている映像があったりするんですよ。

———そうなんですか! その「時をかける少女」がオープニング曲ですが、思い起こせば初めてゴローさんとやった『music & me』(2007)でもカヴァーされていましたね。前回はゴローさんのギターの伴奏だけでしたが、今回は爽快なストリングス・アレンジが印象的です。

伊藤ポップスの歴史に残る曲なのでアレンジは悩みました。最初はオリジナルを完コピしようと思ったんですけど、あの時代じゃないと出ない音や演奏があるし、やっぱり違う方向で行こうと。

原田ゴローさんにアレンジしていただくのは2回目なので、どんな風に仕上がるのかなって期待していたんですけど、ストリングスのイントロを聴いた時、〈大成功!〉って思いました。と同時に、アルバムの1曲目を飾るにふさわしいアレンジだと思いましたね。

———続く「ロマンス」と「愛のロケット」はトーレ・ヨハンソンがプロデュースした曲ですが、オリジナルに忠実なアレンジですね。

伊藤メロディーやハーモニー、いろんなものがピタリとハマっていて動かしようがない曲なんです。とくに「ロマンス」は奇跡的なくらいポップスとして完成されている。ライヴではいろんなアレンジを試してきたけど、最終的にオリジナルに近い形になりました。

原田この2曲は、ヴォーカルも原曲に近い感じで歌わないと曲の良さが出ないんです。でも、最近こういう元気いっぱいな感じの曲を歌っていなかったので、ちゃんと歌えるか心配でした。なので、20年前のツアーのことを思い出して、思い切りテンションをあげて歌いました(笑)。

伊藤レコーディングの時は、バンドにも〈元気よく!〉って声をかけてね(笑)。

———大貫妙子さんが提供した「地下鉄のザジ」は、テクノ・ポップな味付けの原曲からバンド・サウンドになって躍動感が増しましたね。

伊藤オリジナルは時代的にテクノな音になっているけど、大貫さんは60年代のフレンチ・ポップみたいなイメージでこの曲を作ったと思うんです。そこをアレンジで引き出したいと思いました。

———ザジという少女の世界を、大人の女性として歌うというのも難しそうですね。

原田この曲は当時の少女の声で成り立っていると思うので、〈どう歌えばいいだろう?〉って悩みました。それで大貫さんがライヴでこの曲を歌っていらっしゃるのを聴いてみたらすごく素敵で。自然に歌われていたんですよね。私も昔の声を忘れて、自然に歌うことを心掛けたらうまくいきました。

———少女と大人の女性、両方の世界を持っているところは、原田さんと大貫さんの共通するところだと思います。そして、松任谷由実さんが提供した「ダンデライオン~遅咲きのタンポポ」から少しずつ大人っぽさが顔を覗かせてきますね。アレンジもメロウになって。

伊藤これは以前NHKの音楽番組「SONGS」に出演した際に考えたアレンジです。その後ライヴでもこのアレンジで演奏してきました。

原田ゴローさんのアレンジでは、サビのところでピアノの刻みが入るんですけど、それが入ることで10代の頃とは違った気持ちで歌えるんですよね。あの刻みが今の気持ちで歌う上での糸口になりました。

———「天国にいちばん近い島」は、坪口昌恭さんのピアノの演奏といい、原田さんの歌声といい、胸を打つような切なさです。こんなに良い曲だったのかと改めて思いました。

伊藤この曲は10年くらい前にライヴでやって〈良い曲だなあ〉と思ったんです。今回はメロディーを聴かせたいと思ってシンプルなピアノと歌だけのアレンジにしました。

原田これこそ今の気持ちで歌うべき曲だと思いました。シンプルだからこそ、ひとつひとつの言葉を大切にして、ちょっと演じるような気持ちで歌ったんです。レコーディングでは、坪口さんのピアノと歌で会話しているようなすごく良い雰囲気で歌うことができました。大人の心に響く曲になったと思います。

———それに比べると「ときめきのアクシデント」はさらっと自然体で歌われていますね。

原田この曲はすごく好きで、今回どうしても入れたかった曲のひとつなんです。いつも自然体で歌える曲です。それに、オリジナル当時の声も好きなんです。

伊藤いろんなアレンジができる曲なんですけど、今回は日記のような、メモ書きするみたいな感じでさらっと録りました。ライヴの時は違うアレンジでやったりすると面白いかも。

———期待してます。鈴木慶一さんが提供した「空と糸 -talking on air-」は、アイリッシュ音楽のグループ、tricolorが参加してトラッド・ミュージック風に味付けになっています。

伊藤この曲は僕がリクエストしました。大好きな曲なので。きっと慶一さんはアイリッシュ音楽を意識して曲を書いたんじゃないかと思ってtricolorと一緒にやってみました。今回のアレンジは全般的にそうなんですけど、作者が曲を作った時に意識したであろう音楽を自分なりに見つけ出して、その部分をアレンジで引き出してみようと心がけました。

原田この曲は慶一さんにプロデュースしていただいた曲のなかでも、ちょっと異質な感じがする曲なんですよね。CMソングとして作られたので、アルバムの時と違ってテーマも最初からあったからかもしれない。曲をもらった時、すごく新鮮に感じたことを覚えています。私の声に合っていて心地良く歌える曲ですね。

———一方、「うたかたの恋」はゴローさんとのコラボレートで生まれた名曲のひとつですね。

原田ありがとうございます。ゴローさんと作ってきた曲のなかで、この曲は近年の代表曲だと思っています。オリジナルでは囁くように歌っていますが、ライヴを重ねていく中で少しずつ歌い方も変わってきました。

伊藤この曲は、フランソワーズ・アルディからの流れを感じさせる日本の70~80年代のポップスをイメージして作りました。今回はフランスのアーティスト、ブリジット・フォンテーヌをイメージして再アレンジしています。

———そして、ラストナンバーはキセルが提供した「くちなしの丘」です。ライヴでは定番曲ですが、今回はギターの弾き語りに挑戦されたとか。

原田これもとても大切な曲です。この曲は特に、自分の個人的な想い出とも重なるところがある。それで、ギターの弾き語りで歌うとぴったりな曲だと思って去年の12月くらいからギターの練習を始めたんです。毎日、家で個人練習して、レコーディングでゴローさんに会う度にいろいろアドバイスをいただきながら。

伊藤スタジオにもギターを持ってきて、ずっと弾いてたよね。

原田今も練習は続けています。ほかの曲はできないんですけど、この曲だけでも自然に演奏できるようになったらどんなにいいだろうと思って。

———ライヴで披露する時には、さらに腕があがってそうですね。

原田〈ファンの皆さんに何かお返ししたい〉という気持ちもあるので頑張ります。

———楽しみにしています! 初回限定盤には「雨のプラネタリウム」がボーナストラックで収録されますが、かなりの異色作ですね。アレンジがすごく実験的で。

伊藤この曲は好きな人も多いだろうな、と思いつつも、オリジナルは当時のシンセ等の音がかなり反映されているので、アレンジするのが難しくて。あれこれやっているうちに、あらぬ方向に行ってしまいました(笑)。楽器を聴いちゃうと歌えない曲ですね。いろんな拍(リズム)が絡んでいるし。

原田でも、昔ライヴで何度も歌っていた曲なので身体にしみこんでいて、アレンジが大きく変わっても迷うことなく歌うことが出来ました。初めてだったら歌えなかったと思います(笑)。

———初回盤のみ収録というのがもったいないですね。それにしても、こうして過去の曲とじっくり向き合ってみて、どんな感想をもたれました?

原田その時々の作家の方々が、等身大の私をしっかり見つめて曲を書いて下さっていて、曲のなかに自分の姿が見える気がしました。大人になってからは、私の新しい扉を開いてくれる人を自分で探すようになって、慶一さんや、トーレさんや、ゴローさんに出会った。年代によって、音楽への取り組み方や自分自身も変化してきたんだなって改めて思いましたね。

———思えばゴローさんとのコラボレートは今年で10年目を迎えます。この10年を振り返ってみていかがですか。

原田ずっと〈日常と音楽が近くなればいいな〉と思ってきたんですけど、ゴローさんとの10年でその理想の形が実現できた気がします。日記を綴るようにアルバムを出して、穏やかで良い時間を過ごしてこられました。

伊藤レコーディングのペース配分とか力の抜き具合とか変わってきたよね。歌入れの時間も短くなってきたし。それはもちろん事前にしっかりと準備をやっているからでしょうし、ちゃんと自分でコントロールしています。

———〈音楽と私〉が良い関係で結ばれているんですね。

原田そうですね。いま、すごくリラックスして歌うことができるんです。映画やドラマだと撮影期間中のスタッフどうしの関係は濃密なんですけど、撮影が終わるとみんなバラバラになって次にいつ会えるかわからない。でも音楽だと、最近は年に何回もゴローさんやバンドの皆さんに会える。そうすると、ホッとして素でいられるんですよね。私にとって、ここ(音楽)が帰る場所になってきているんだと思います。

聞き手:村尾泰郎