Talk about eyja

Talk about eyja #4 原田知世×大貫妙子

名曲「地下鉄のザジ」から四半世紀。
ずっと温かな眼差しで原田知世を見守ってきた大貫妙子さん。
誕生日も同じこのふたり。近年コラボレートがまた活発になってきました。
もの言う大人の女性、昔は子供だったけど大人になった女性、
進行役を忘れ、悩み相談もしちゃった男性。
3人が葉山のengawaで語らいました。世の淑女殿方、必読です。

写真・構成 : エドツワキ 撮影協力 : engawa cafe & restaurant
2010.03.29 updated

地下鉄のザジ と 出会い

原田知世 (以下T)ツアーで「地下鉄のザジ」やってるんですよ。

大貫妙子 (以下O )ホント?

Tゴローさんもお客さんも喜んでいます(笑)

Ed (以下E)おふたりが初めて会ったときのこと覚えていますか?

Oスタジオですよね。

Tはい。15才のときです。
16才のバースデイ・アルバムに「地下鉄のザジ」を書いていただいて、翌年の17才のときは坂本さんにプロデュースしていただきました。

E幸せ者ですね。

O可愛いから!!

一同爆笑

Oなんていうのか、なにものにも染まっていないし、声もナチュラル。曲を作る側からすると、イメージが広がりやすかった。当時も今もシンガーソングライターは自己主張の強いひとが多いので。知世ちゃんのようなひとは前にも後にもいないんじゃないですか? だから一緒にやりたいと思うのは当然だと思う。思うでしょ?

Eそうですね(笑) 知世ちゃんを通してなにかを表現したい。という気持ちを喚起させますね。

O単におとなしくてかわいいというだけではおもしろくなくて、素直な感じなのに、割りとはっきり物を言うという。

一同爆笑

T見抜かれてる(笑)

思春期 と 音楽

O今の知世ちゃん、初めて会った15才の頃から垣間見ることができたし、変わらないですよね。
ひとは大体は中学生の頃で決まってしまう。その頃になにか光を見たひと、自分が進むべき確固とした道を見つけたひとは、その強い思いでその後の人生を進んでける。それに出会えないというのがほとんどですが。柔らかいあたまで見つけたもの。それに脇目もふらず夢中になる。そういう感覚がありませんでしたか?

Tありました。

Oだからわたし中学校の頃の友達、結構多いですよ。あの頃「変わってる」って言われてたひとは今もそう(笑)

Tわたしも高校時代からの親友が何人かいて、年に数回必ず集まりますけど、みんな変わらないです。

Oそうでしょ。それから、音楽でも、絵でも、本でも、たまらないほど「コレだ!」って思うものに出会ったときは幸せですよね。

Eまったく。今もそういうとこありますけど、僕は「自分で見つけた」っていう喜びが大きかったですね。ただ、そうした外部から得られる感動の頻度は、歳を重ねるごとに細ってきます。それは事実として受け止めています。少し残念ではあるけれど。

Oそれはそうです。わたしたちは創り上げていく側に回ったんだし。ひとが創ったものからの影響だけでは限界があります。それにこだわるのを止めて、ひと以外のもの=自然 に惹かれてわたしは外に出ていったんです。
海辺の街に移り住んで、庭の土を掘り起こして色んな生き物を観察したり、セミはあんなに小さな身体からなんであんな大きな音を発することができるんだろう?と思って、奥本大三郎さんが新訳した「ファーブル昆虫記」を読んだらちゃんと解って、ハハーッて思ったり。そういうことがとても楽しいんです。
90年代にアフリカでネイチャーな旅を続けていた頃。滞在して一週間くらいはすごく違和感があるんですよ。都会の空気の中で暮らしていると、ワイルドライフにはすぐに順応できない。馴染んでいない感じがよく分かるの。例えば動物が近くにいても気づけない。それが一週間も経つとすごく遠くにいる、耳だけが見えてるライオンを気配で分かったりするようになる。そういう、日常では蓋をして閉じていたような感覚が開いてくる。そこの周波数を身体で覚えたら、都会に戻ってきてもそのスイッチを切らないようにしているんです。そうすると、家の庭に来る鳥でも虫でもすごく繋がっているのが分かるの。自然と繋がるということは、つねにその周波数に合わせておかなくちゃならないんです。そうし続けることが自分の掟ようなものなの。
一度普段の環境とぜんぜん違うところに身を置いてみることは必要です。見慣れた風景とは違う、圧倒的なものに出会うと、人はそれが自分の視点の基準になります。その視点を通して、あらゆることを思考するようになる。私にとってはアフリカや南極ですが。日常の中に常にその風景があるといっても過言ではありませんから。生きるということの基本は、動物的な感覚で、「勘」ですね。自分の勘を信じて、どうでもいい情報は削除していく。そういうことがこれからの時代はとても大事だと思います。

Tああ なんて素晴らしいんだろう。

O音楽もそういうものだと思うんです。形のないものなので、言葉やメロディーを歌っているんだけど、ひとが聴いているのは実は言葉や旋律ではないんですよ。聴く側に回ったときにそういうことはないですか? 全然別の空間に行っちゃってたり、すごく昔のことを思い出していたりとか。

Tあります。

O知世ちゃんやわたしがやっている音楽にはそういう要素が強いんだと思います。わたしにとってステージで歌うということは、誰もが通りすぎて来た過去に、置いてきてしまったもの。それを取りに行ってもらいたいという気持ちなんです。
人は忘れてしまっていることはひとつもないのに。思い出す時間も余裕もない。そんな時代なんです。せめてコンサートでは、いろいろな思いを旅する時間を共有できるといいなと思っているんです。そういうところは知世ちゃんにもあるんですよ。知世ちゃんがステージで歌っていて、姿がかわいいとか声がきれいだとか、そういうことも超えたなにか別のものを、聴きにいらした方はもらっているんだと思うんですよね。

夢のゆりかご と よく見る夢

T「笑ってるの泣いているの...」っていう一節が、自分の夢のなかで出会ったひとたちも後で思い返しても表情が思い出せないことが多いので、とても心に残りました。

E夢のなかでさっきまで見ていた夢のことを誰かに話していて、また目覚めるってことがよくあるんでしょ?

Tそう。二度目覚めて、エドさんに話して聞かせます(笑)

Oわたしもよくありますよ(笑) 夢の中で目が覚めたら、まだ夢の中だったってことでしょ?
カラーで見ますか?

Tカラーです。

Oモノクロでしか見ない方もたくさんいらっしゃるみたいですよ。

Tそうですか? 不思議ですね。わたしは何色のシャツを着てたとか覚えていますけどね。

Oそうでしょ? この前見た夢はね、10年くらい前に死んだ犬が出てきたんだけど、家の中の何処かから出てきて、なんだそんなところに隠れてたの!?って。だっこして一生懸命撫でてやったんです。そうして目が覚めたんだけど、今まで抱いてたその温もりが残っているのよね。だから身体はしっかりとその温度や重さを覚えているんでしょうね。

Tああ....泣きそう。

O同じ夢を見ることもありますよ。すごく現実的なんだけれど。
今すぐステージに出なくてはならないんだけど、ぜんぜん歌詞が出てこないとか(笑)

Eまったく同じこと言ってたね。

T映画に入る一週間前になると、現場にいてセッティングもできてて、相手の方もいて、セリフがぜんぜん出てこない夢を毎晩(笑) ツアーの前は大貫さんとまったく同じです。

E目が覚めたときは?

Oものすごく疲れてる(笑)

E安堵しませんか?

O疲労感のほうが大きい(笑)

T学生時代は毎日忙しかったので、夢のなかでも仕事していましたね(笑) 夢と現実の境界が曖昧でした。学校にきちんと出席できるようにしてもらっていたので、夏休みとか春休みを利用して映画の撮影、合間にCMの撮影、レコーディング....という感じで。追われていたんでしょうね。

ステージ と 使命

E大貫さん、ライブの前に緊張することあるんですか?

Oありますよ! 死ぬほど!! 平常心ではできないですね。
でもね、ライブで歌わないと、歌はうまくならないです。

Tわかります! ライブで歌が育ちますよね。ステージで歌っていかないと進歩がないですよね。

Oない!

一同

Oそれがステージというものなんですよ。何百何千という方の前で歌うなんてことは尋常なことではないんだもの。あの場に立って初めて、身体のなかで眠っていた力が出てくるんです。見たこともない声が出る。
ステージは奉納そのものですから。プロのスポーツ選手やアスリートと同じだと思います。プレッシャーのない仕事ってダメでしょ?

Eそうですね。

Oそこで磨いていく。だけど、本当はやりたくない(笑)
でも自分の次なるステップのためには、必ずやらなければならないことで。
恐ろしいことですよ。一字一句間違えないで20曲歌うってことは(笑)

Tホントに!!

Eここ数年は傍らで見ていますけど、毎回ため息つきながら、ウンウンブツブツ言いながら、アルバム作って、取材も受けて、ツアーやって....。って辛そうなのに、またやるんだね。って。

T苦しみながらもやってしまうんですよね。そうしてやり終えたときの達成感がすごく大きいんですよね。

Oそうよね。多分、それを超える達成感はないと思う。

Eそれを心から楽しんでやっているひとがいるのかどうか分からないけど、少なくとも素の彼女は、そういうことが得意なひとではないんですよね。

Tそうだね。

Eでも待ってくれているひとたちがいるし、今日まで続けてきた。

Oお役目なんだよね。

Eそうとしか思えないですね。

Oがんばりましょうよ(笑)

Tはい(笑)

男 と 女

E大貫さんは自分のなかに男性と女性が両方ある感覚はありますか?

Oありますよ。女性性は、好きな男のひとのためと、作品を作るときですね。個人的なところ。女に生まれたんだから、女にしか描けない世界がありますから。男性性は社会性だから、家から一歩出て、仕事の現場ではずっと男ですよね。でも男性のことは本当には理解できないですよ。宇宙人みたいって思う。

E男は男でそう思っているんです。

Oですよね。だから、「理解できない!」って喧嘩することが理解できない。

Tそうですよねー。

Eそれから、男同士はいくら仲良くてもどこかでライバルなんですよ。

Oそうよね。雄だものね。

Eでも、傷ついていることは男同士にしか解らないことが多いんじゃないかな。

Oそうかな? わたしたちも男社会のなかで生きているから、少しは理解できますよ。

Eその傷の深さとか、察知する早さは男同士ならではだと思うんですよ。

Oそうかもね(笑)

E女々しい、ってもちろん男にしか使わない表現ですけど、それも男の特性なんですよね。

Oそうですよねえ。

一同

Oでもね、若い時は女に生まれて損したなあって思いましたよ。

T本当ですか?

Oそう。ミュージシャン仲間はほとんど男だし、だからといって女として扱われた記憶もないし、バンドのなかではそうではなかったけど、社会ではまだ女性の意見は尊重されていなかったもの。だから仕事していく上で女は不自由だなあって思っていたの。でも38くらいになってからかな?やっと女でよかったと思うようになった。それは、男社会の大変さ、男のひとを見れば見るほど、いろいろな意味で、ああ、大変だ!って分かってくるじゃない。やっぱり女でよかった。生まれ変わっても女だって(笑) だから男性の大変さ、分かります。

Eありがとうございます!

一同爆笑

E40代に入って特にキツいですね。

O男のひとは40からです。そこからどんどん素敵になる。でも、大変な時期でもある。いかにうまく40を越えていくか。まわりで、いっぱい見てきたのでわかります。悩み多き年頃ですよね。

E通過儀礼みたいなものですかね。

Oこの前、坂本さんとも話していたんだけど、55過ぎてきてやっと楽になったねって。別に誰になんと思われたっていいというか。開き直ったわけではなくて、着ていた鎧みたいなものを脱いだんでしょうね。

E男は特にそういうところがあります。ひとの目にどう映っているか?とか。美意識として大きいんですよね。

O嫉妬心も強いしね。半端じゃなく!!

一同爆笑

E男は顔には出さないですからね。

Oそう。男はしようがないんですよ。常に存在理由を見い出しておかなくてはならないので。本能的にはやっぱりトップに立ちたいんですよ。戦争も政治の世界もみんなそうだもん。男がいなければ世界はもっと平和ですよ。....なんでこんな話になったんでしょう(笑)

Eあの、僕だけではなく、これを読んだ世の男性たち、いろいろ合点がいったと思います。

T本当に。

一同

音楽 と 未来

T曲と詩を書くのはどちらが難しいですか?

O歌詞です。曲の100倍大変。

Eでも、誰かに詩を依頼されたことはないですよね?

Oないです。自分のアルバムでは。だって、「こんなこと思っていない」ってこと歌えないでしょ?
テニオハで意味も違ってしまうし。だから悩みながらも自分で書いています。坂本さんと今度作るアルバムの歌詞も今、書いているところです。

Tとても楽しみです!

Eそろそろ終わりにしたいと思いますが、大貫さんと知世ちゃん、すでに四半世紀を超えるつきあいがあって、誕生日も同じで。と、とても深いご縁を感じますけど、一リスナーとしては、いつかおふたりでなにか作品を作っていただきたいと思っています。

Oそうですね。ちゃんと考えましょうか。でも、そろそろ枯れはじめていく人と一緒で大丈夫?

Tなに言ってるんですか!?

一同爆笑

T今日は本当にためになる話ばかりで、一語一句聞き逃したくなくて、対談というにはあまりにも口数少なくなってしまいましたが(笑) 内面から出てくるものが作品になっていくこと、芯が豊かになっていくことが目標なので、今日は触発されるばかりで、ますます大貫さんはわたしの目標です。

Oありがとうございます。でもわたしみたいになっちゃうと、今日みたいになものの言い方になっちゃうんだから(笑)
知世ちゃんは芯もしっかりしているし、自分も持っている。さらにお花のような、少女のかわいらしさが残っていること、それがとっても素敵なことなのですよ。

Eお言葉ですが、大貫さん、めちゃめちゃかわいいですよ。

Tそう、可愛らしい女性!

Oいやいやいやあ そんなこと言われたことない。

一同

T大貫さんにこうして会うと、みんなそう思いますよ。

E物言いはたしかに江戸っ子ですけどね(笑)

Oそうそうベランメエ調・・・ですよね(笑)
はじめて会った方には、必ず言われます。
イメージが違ったって。

Eでもそのなかに少女の顔が見え隠れしていますよ。

T本当に!

Oありがとうございます(笑)

T今日はたくさんの素晴らしいお話をありがとうございました。

  • 原田知世

    アイスランド語で“島”を指す言葉(“エイヤ”と読む)をタイトルに掲げた、2年ぶりのアルバム。前作同様、プロデューサーに伊藤ゴローを迎え、アイスランドからはムームのほかビョークのコラボ相手として有名なヴァルゲイル・シグルドソンが参加。澄んだメロディと言葉が、心を清めてくれる。
    eyja』 EMIミュージック ジャパン ¥3,000 発売中

  • 大貫妙子http://onukitaeko.jp

    23年間続いてきたアコースティックコンサートを初めて映像化した DVD「Gratefully Yours〜Pure Acoustic 2009 at JCB HALL〜」が発売中。
    5月3日(月祝)、日比谷野外音楽堂で開催される春のポップ&ピースな音楽フェスティバル「Springfields’10 〜東京場所〜」に出演。
    NHK-FM『大貫妙子 懐かしい未来』でのパーソナリティはお馴染み。(毎月最終火曜23:00〜24:00放送)
    Gratefully Yours』 HATS UNLIMITED ¥5,900 発売中

原田知世 LIVE TOUR 2010 eyja

  • 2010.2.11仙台公演 仙台市民会館
  • 2010.2.26山口公演 てしま旅館
  • 2010.2.27大阪公演 サンケイホールブリーゼ
  • 2010.3.6沖縄公演 桜坂劇場ホールA
  • 2010.4.20東京公演 めぐろパーシモンホール

原田知世 LIVE "eyja night fall"

  • 2010.4.12ビルボードライブ東京