Talk about eyja

Talk about eyja #1
原田知世xmúm

最新作『eyja』をアイスランドで録音した原田知世が、現地での共作者の一組、ムームのグンネル・ティーネス&オルヴァル・スマラソンと、川崎で開催されたフェスTAICOCLUBにて再会。ステージでの共演を控えた3人が、2つの島国を結ぶコラボを仲睦まじく振り返ってくれた。

写真:江原隆司  スタイリング:大森伃佑子  ヘア&メイク:木暮モエ(HEADS)
文:新谷洋子 (ecocolo44号より抜粋)  2009.12.25 updated

原田さんがアイスランド録音を思い立った理由は?

原田知世(以下、T)前作をハウススタジオで録音したんです。通常のスタジオにはない、とてもリラックスした雰囲気の中、周りにある生活の音などを取り入れた作品作りができて、すごく新鮮でした。今回もそんな環境の中で作りたいと考えていた時に、ムームが灯台などユニークな場所で録音しているという話を思い出して。

グンネル(以下、G)だって僕らはそのほうがリラックスできるし、スタジオはお金もかかるからね(笑)。時計を気にしていると、クリエイティヴィティによくないよ。

T小さな島国なのに素敵なアーティストがたくさん生まれていて、どんなところだろうと興味を持っていました。ムームを好きになったのは、夫に彼らのアルバムを聴かせてもらったのがきっかけです。そして、アイスランドレコーディングが決まった時、すぐに彼らにオファーしたんです。

90年代、スウェーデン人プロデューサーのトーレ・ヨハンソンともコラボしていますが、北欧のミュージシャンの感性に共感を覚えますか?

Tそうですね。もちろん同じ北欧でもそれぞれ違うと思いますが、みんな自由に音作りをしていて、作品に共通した温かさを感じます。

オルヴァル(以下、O)みんな音楽を恐れていないんだ。音楽って、何か計画や規則にのっとってないと成立しないと思ってるミュージシャンもいるよね。でも、それって間違ってる。感覚重視で、あらゆる可能性にオープンであるべきだし、北欧にはそういうスタンスの人が多いと思うよ。

Tちなみに、アイスランドの冬は日照時間が短くて家にいる時間が長いから、みんな音楽を作ったり絵を描いたりする環境があって、人口に対して音楽に携わる人が多いと聞いたのですが……。

Gうん、アーティスト人口は多いね。それにはもうひとつ理由があって、アイスランドは地理的に隔離されていて、外からの刺激に頼らずに人生を楽しむ方法を考え出さなくちゃならないから、自らアートを作るんだ。つい最近まで、海外ミュージシャンが公演することもめったになかったし。

Tなるほど。実際に行ってみると本当に自然が美しく、「ここは天国かも」と思うような瞬間が多くありました。妖精が住んでいると言われたら、納得してしまう空気が流れていて。アイスランドの音楽には、そういったことが反映されているように感じます。

Gそうだね。人間として、アイスランドの自然は僕らに何らかの作用を及ぼしているから、必然的に音楽にも反映されているはずだよ。

Oでも今回使ったスタジオは、あまり美しくない工業地帯にあったんだよね(笑)。

G当初は僕の両親の別荘でやるつもりだったのに、スケジュールの都合がつかなくて。本当に美しい場所だから、次回はそこでやろうね。

Tぜひお願いします!

曲作りはどんなふうに?

Oまずトモヨの過去の作品を参考に曲をラフに作って、彼女がそこに詞をつけて……。

T私は2人に、「新しいことにチャレンジしてほしい、純粋に声だけを聴いて、自由な発想でやってほしい」とお願いしたんです。私自身もどんなことにも挑戦したいと思っていたから、具体的なリクエストはしませんでした。現地ではまずオルヴァルと私がボーカルを録って、その後2人がいろんな楽器を弾いて音を加えていって……。まさにあうんの呼吸で、その作業の雰囲気がすごく良かった。

Oムームの曲作りも、いつもそんなゆるい感じだよね。役割分担も決まってないし。

Gたまに言い争うこともあるけど、楽器を取り合ったりはしないよ(笑)。お互いアプローチが違うから面白いんだし、重要なのは結果だから。

O片方がトイレに行った隙に、修正することはあるけど。

G(笑)。トモヨと作った2曲は、結果的に2つの対照的な表情を見せているよね。「us」は静謐で、「予感」はリズミカルでユーモラス。無意識のうちに、補完し合う方向を目指していたんだろうな。

Tどちらも本当に素敵な仕上がりで、新しい扉を開いてもらったという手応えを得ました。いい結果にたどり着けて、すごくハッピー!

『us』にはどこかの伝統唱歌のような、ノスタルジックな響きがありますね。

原田知世:キノコ柄のワンピースドレス ¥69,300 中に着たカットソー ¥21,000 レギンス ¥13,650 お花のモチーフのネックレス ¥16,800 (以上、すべてミナ ペルホネン Tel 03-5793-3700)、ブーツ ¥54,600 (そのみつ Tel 03-3823-7178)

T私もちょっとアジアのメロディのような、すごく近いものを感じて驚きました。こんなに離れているのに!

G島国同士で、つながる部分があるのかもね。僕らは日本人と違って、ひどく注意力散漫なんだけど(笑)、それを除けば似てる気がするよ。

O魚と温泉が好きだし!

Tシャイなところも似てます。日本人も積極的に人に話しかけたりしないけど、アイスランド人も控えめで、でもすごく温かくて、いい人しかいなかった(笑)。なんでもアイスランドには『ハヴァマール』というヴァイキングの教えの本みたいなものがあって、そこでも人を優しくもてなすことに触れていて、子どももみんな読んでいるんですって。脈々と、そういう精神が伝わっているみたい。

Gでも不器用だから、親切にしたいのに乱暴な印象を与えちゃう。「オラオラ、水はいるか!」みたいな(笑)。

O親しくなれば、親切だってわかるんだけどね。それに人口が少なくて、昔は隣町を訪ねるにも何日もかかったから、単純に人に出会うとうれしくて親切にする、という習慣が根付いているんだ。

  • 原田知世

    アイスランド語で“島”を指す言葉(“エイヤ”と読む)をタイトルに掲げた、2年ぶりのアルバム。前作同様、プロデューサーに伊藤ゴローを迎え、アイスランドからはムームのほかビョークのコラボ相手として有名なヴァルゲイル・シグルドソンが参加。澄んだメロディと言葉が、心を清めてくれる。
    eyja』 EMIミュージック ジャパン ¥3,000 発売中

  • múm

    長期ツアーでケミストリーを培った7人編成バンドで、4カ国を移動しながら作った5枚目。ピアノやストリングスやマリンバで構築する緻密なアンサンブルの隙間から聴こえるのは、インコの鳴き声にドアを開閉するノイズ! たくさんの音が詰まっていながら、どこまでもピースフルで優しい。
    シング・アロング・トゥ・ソングス・ユー・ドント・ノウ』 Hostess ¥2,490 発売中

原田知世 LIVE TOUR 2010 eyja

  • 2010.2.11仙台公演 仙台市民会館
  • 2010.2.26山口公演 てしま旅館
  • 2010.2.27大阪公演 サンケイホールブリーゼ
  • 2010.3.6沖縄公演 桜坂劇場ホールA
  • 2010.4.20東京公演 めぐろパーシモンホール

原田知世 LIVE "eyja night fall"

  • 2010.4.12ビルボードライブ東京