原田知世
Candle Lights

新曲「冬のこもりうた」や、細野晴臣、高野寛、伊藤ゴローによるリワーク・ヴァージョンを収録した、バラード・セレクション・アルバム。

    1. ラヴ・ミー・テンダー - Haruomi Hosono Rework
    2. 冬のこもりうた
    3. ソバカス
    4. 2月の雲 - Hiroshi Takano Rework
    5. 夏に恋する女たち
    6. イフ・ユー・ウェント・アウェイ
    7. ハーモニー
    8. 銀河絵日記 - Goro Ito Rework
    9. いちょう並木のセレナーデ
    10. ベイビー・アイム・ア・フール
    11. SWEET MEMORIES
    12. 夢のゆりかご

    SHM-CD: UCCJ-2171
    定価:¥3,000 + tax

『Candle Lights』特別インタビュー

過去10年間の楽曲のなかから、選りすぐりのナンバーを集めた原田知世の初めてのバラード・セレクション・アルバム『Candle Lights』。これからの季節にぴったりの新曲「冬のこもりうた」や、細野晴臣などによるリワーク・ヴァージョンを含めた楽曲の数々は、いま大人のシンガーとして新しいステージに立つ彼女の軌跡といえるかもしれない。凛としていながらイノセント。そんな原田知世の今の魅力が詰まったアルバムをめぐるインタビューをご紹介。

———初めてのバラード・セレクションですね。

原田「ドラマ『あなたの番です』を撮影している時にお話を頂きました。その段階で選曲はほとんど決まっていて、新曲も1曲ある。思いがけないプレセントをもらったようで、すごく嬉しかったです。歌を歌ったのは1月のコンサート以来でした」

———新曲の「冬のこもりうた」は、作詞が高橋久美子さん、作曲は伊藤ゴローさんです。去年リリースされたアルバム『L'Heure Bleue』で「銀河絵日記」や「2月の雲」を書いたコンビですね。

原田「この曲は、まず歌詞が届いたんです。可愛らしくて、切なくて、アルバムにぴったりだと思いました。高橋さんの歌詞は、言葉は柔らかいけど心に響く言葉が散りばめられている。この曲には〈さよなら また会おう 今頃 好きだよ〉という一節があって、はじめて歌詞を読んだ時から、その一節がずっと気になっていたんです。なんだか、『あなたの番です』で私が演じた役の気持ちと重なるような気がして」

———というと?

原田「私が演じたヒロインは、大切な人を残して先に逝ってしまいます。そして、その突然の別れによって、自分が彼のことを本当に好きだったことが改めてわかる。だから、〈今頃 好きだよ〉っていう一節が胸に響いて歌うと泣きそうになったんです。あとで高橋さんに話を伺ったら、高橋さんは『あなたの番です』をご覧になっていて、あの二人の今後を考えながら歌詞を書かれたと伺って驚きしました」

———その一節を通じて気持ちが繋がったんですね。伊藤ゴローさんの曲はいかがでした?

原田「毎回そうなのですが、普通にAメロ、Bメロ、サビっていうサビありきの展開じゃないんですよね。3つのメロディーの世界観が違って、ひとつひとつ違った風景を見せてくれる。最初に頂いた曲も素敵でしたけど、レコーディングの時、その場でメロディーを少し変えたりもしたんです」

———ギリギリまで歌に磨きをかけるんですね。

原田「スタジオでゴローさんが私の歌を聴いて、私が歌いやすいメロディーに調整するんです。その場でキーボードを弾いて新しいメロディーを考えて、場合によっては高橋さんも歌詞を少し変える。そうやって、私が自然に歌えて、サビで良い声が出せるようなメロディーに仕上げていきました」

———3人がひとつのチームになって、現場で曲を完成させるんですね、

原田「前作でもそうでしたが、ある程度、余白を残した状態でスタジオに入って、そこでみんなで作り上げるんです。それがとても楽しくて。でも、歌う直前にメロディーを変えるというのは、実は難しいことではあるんですよ。本番の直前にセリフが変わるくらい大変なんですけど、いったん、自分のなかに入ってしまうと、これまで以上に歌いやすくなっているんです」

———職人さんたちとオーダーメイドの服を仕立てているみたいですね。

原田「そうですね(笑)。すごく着心地が良い、自分にぴったりの服に仕上がるんです」

———アルバムにはリワーク曲が3曲収録されています。「ラヴ・ミー・テンダー」を手掛けたのは細野晴臣さん。細野さんが弾かれているピアノも味わい深いですが、声の処理の仕方が印象的ですね。

原田「私が歌い直したみたいに歌の表情が変わっていて、しかも、一曲のなかで変化していくんです。音数が少ないぶん、その声の演出がすごく効果的で面白かったですね。これまで、自分の声をこんな風に加工したことはなかったんですけど、〈曲によってはこれくらいのことをしてもいいんだ〉って勉強になりました。先日、細野さんにお会いしたら、この曲をすごく気に入っているとおっしゃっていて嬉しかったですね」

———「2月の雲」のリワークを手掛けたのは高野寛さん。リズムが強調されたエレクトロニックなサウンドに仕上がっています。

原田「リズムが力強くなっていて、歌声が違って聞こえました。コーラスが入っているパートは、声が強調されているように聞こえたりもして。実は最初に頂いたヴァージョンは、今よりさらにリズムが強調された仕上がりだったんです。そこを今回のアルバムの雰囲気に合わせて少し調整して頂いたんですけど、最初のヴァージョンも好きなので、いつか皆さんに聴いてもらいたいです」

———そして、伊藤ゴローさんのリワークによる「銀河絵日記」は、広がりのあるサウンドで映像的なサウンドになっていますね。

原田「『銀河絵日記』は『ルール・ブルー』で2ヴァージョン作って頂いて、間を置かないで新しいアレンジを作るのは大変だったと思いますが、よりドリーミーになりました。地上を離れて宇宙に飛び立ったみたいな感じで、ヘッドフォンで聴いてもらいたいです」

———そのほか、アルバムにはこの10年間に発表された曲が並べられています。まとめて聴いてみて、どんな感想を持たれました?

原田「声自体はそんなに変わっていませんが、その時々によって声の表現の仕方が違うなって改めて思いました。曲によっては、今の方が若く聞こえる曲もあったりもして面白かったです」

———バラード・セレクションと銘打っていますが、ポップな曲も入っていたりして飽きのこないアルバムになっていますね。

原田「〈バラード〉と聞くと静かに始まってサビで歌い上げるイメージが強いですよね。でも、私のバラードはちょっと違って、張りつめていた気持ちを緩めてくれたり、落ち着かせてくれる曲じゃないかなって思います。泣けてきたり、感情が盛り上がるバラードも好きですけど、それとは逆のタイプのような気がします」

———アルバムのタイトルどおり、キャンドルの灯りみたいに温かな曲ばかりでした。それと同時に「バラード」という切り口でまとめることで、この10年間で原田さんが大人の女性のヴォーカリストとして独自のスタンスを築き上げてきたことが伝わってきます。

原田「やっと、こういう作品集を作れるようになったんでしょうね。この10年間は歌手として学ぶことが多くて、今まで表現できなかった大人のニュアンスにも挑戦しました。でも、決して無理をせず、自然に歌うことを心掛けてきました。そうじゃないとモノマネみたいになってしまうので」

———メロディー・ガルドー「ベイビー・アイム・ア・フール」みたいに、大人っぽいなかにも可愛らしさが感じられるのが原田さんのバラードの魅力ですね。

原田「難しいんですよ、あの曲。もっと雰囲気を出して歌いたいんですけど、あれがいっぱいいっぱい(笑)。声も変わっていくし、自分自身も変わっていく。そのなかで、できることをやってきたつもりでしたが、ちゃんと一歩一歩、歩んで来られたなってアルバムを聴いて実感できました。最近、ドラマのおかげで新しいファンの方との出会いが増えたんですけど、そういう方たちに歌を聴いてもらえる良い機会にもなりました。10月末からライヴもあるので、また皆さんの前で歌えることを楽しみにしています」

(2019年10月17日収録)

インタビュー:村尾泰郎

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